風林会館前26時43分

暑さと湿気でべったりと汗がまとわりつく、、、俺は、靖国通りから左に曲がり新宿区役所を左に見ながらゆるい坂を下っていた。まったく蒸し暑い。「本国も暑かったが湿気は無く、まだ過ごしやすかった」おまけに今日は奥歯も痛む。
 風林会館前の雑居ビルにある小さなアウトレットショップ、エレベーターで3階か、、ビルの入り口にはステンレス製のパイプシャッター しかし鍵はかかっていない。4階に麻雀店、5階にはマッサージ店。いずれも深夜まで営業しているようだ。
 2階は空室か? 集合ポストがいらない物を吐きだしているかのようにチラシがあふれている。エレベーターが開いたらすぐ店だ。手前のガラスのショーケースの中にはギラつく大きな石の指輪、奥のショーケースにはブランドの物のバックやコートがおいてある。おおかた酒臭い男たちがきらびやかに化けた女たちに貢いだものだろう。小さい店の割には景気が良いのかそんな物たちがところ狭しとおいてある。防犯カメラはエレベーターの上と奥の通路、セキュリティーをつなぐ配線ケーブルも見える。 俺は何かを捜しに来たが目当ての物がなかった と 見せかけてエレベーターに戻りビルを後にした。

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 26時20分。黒い服を身にまとった4人の男たちと、ニコニコタオル と書かれているワゴン車に乗り込む。
 大ガードをくぐり区役所どうりを左折。コロナコロナと騒いでいるのに馬鹿な男達が夜の通りをフラフラと歩いている。「まあこちらにしてみれば良いカモフラージュになるので好都合だが、、、」
 26時40分 昼に訪れたビルの前に到着。エレベーターが1階に止まっていることを確認。勝負は7分だ。
 「行くぞ!」運転席に一人残しエレベーターに乗り込む。6人乗りの小さなエレベーターに男が4人。じっとりと汗が首筋から胸にかけてからみつく。3階と書いてあるエレベーターの鍵を針金であける。こんなもの3秒あれば開けられる。エレベーターは3階へ。ドアが開く。
 「さあぁ!」
 「ん?何だこの壁は?エレベーターの扉が開いてないのか? いや違う」
これくらいの想定外のことは逆に想定内だ。今までも無かったことじゃない。普段はタオルの回収に使う大き目の袋から長さ1mのバールを取り出し、それを床と壁の隙間へ差し込む。が、隙間が全くなく、入らない。バールがその壁にあたり鈍い音がした。
 「鉄ではないようだ」それならば、、大男の仲間の一人が壁に体当たりを試みる。壁は揺れ、大きくしなる。タイミングを見計らい壁にできた隙間にバールを差し込みそのバール起こす。
 「鉄でなければこれで一発だ」
しかし、何度も繰り返すが壊れない。仲間のもう一人が磁石をあてるが、、、くっつかない。
 「やはり鉄ではない 何だ? 木の板か?うぅ。」
 「43分!」
 「………ダメだ! バックだ!」俺たちは黙ってビルの外に待たせてあったワゴン車に乗り込む。運転手の男が目を見開き不思議そうな顔をする。
 「いいから出せ!」車は走りだし、歌舞伎町交番の前で右折。警察官が注意深くこちらを見ているがあえてゆっくり曲がっていく。職安通りに出たところで運転手の男が言った。
 「何も無しか  フッ 下見のミスか….」
 「うるせえ 黙れ!」
 俺は痛む奥歯をさらに痛めつけるようにグッと力を入れて奥歯を噛んだ。

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この話はもちろんフィクションです。

 以前私たちが造らせていただいたアウトレットショップのお店で窃盗に入られてしまいました。その時のオーナーの悔しがった顔は今も忘れません。悔しくて悔しくて悔しさを通り越して半笑いになっておられました。おまわりさんに相談したら
 「シャッターもだめ、鍵を何個かけてもダメ、要は今回のような窃盗のプロは〇〇〇なもの方がかえって良いんです。」と。
 「だったら早く言えっつんだよ! 警備も来るのがおせえし!」
若いころはかなりやんちゃ?だった、そのオーナーはまたおまわりさんに向かって嫌味を言ってきたそうです。その話を聞いて私たちは考えました。
 「〇〇と〇〇を○○して○○でおさえれば、、、、、行けるんじゃないか?」と。
 すいません!○○はやっぱり明かせません。窃盗団にバレてしまったら意味がないので、、、、、、、。本当にすいません。と言う訳で〇〇と○○を○○すれば窃盗団を諦めさせることができるはず。

昨今、現金を誰もいないお店に置いておくオーナーはいらっしゃらないと思いますが、商品はお店においておくしかないですよね。でもその商品だってオーナーからすればお金と同じ、価値あるものですから大切なものです。そんな大切なものをどう守るか。私たちはそんなことも考えました。前出のお店にそれは設置されています。セットするのにちょっと面倒なんですがね。まだ「奴らがまた来た」とは言われていませんがたとえまた奴らが来たとしても、きっと諦めるでしょう……オーナー様の「何とかしたい」というちょっと難しい要望でも
「そんなもの作れません。」そう言わないであれこれ頭をひねりました。私たちのお客様であるオーナー様の悔しがる顔はもう見たくありませんから。